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2021年2月1日

米国の株式市場が波乱の展開、短期調整は避けられないか

鈴木一之

◎日経平均(29日大引):27,663.39(▲534.03、▲1.89%)
◎NYダウ(29日終値):29,982.62(▲620.74、▲2.02%)

「米国の株式市場が波乱の展開、短期調整は避けられないか」

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鈴木一之です。NY株式市場が急落しています。先週の水曜日と金曜日にそれぞれNYダウ工業株が▲600ドル以上下落して、世界中の株式市場が一斉に動揺し始めました。

コロナウイルスの感染拡大が続いており、それを食い止める唯一の手段であるワクチンをいかにスピーディーに自国民に接種するか、各国が先を争ってワクチン調達に走っています。

その緊迫した状況の下で、1週間前にはさほど話題になっていなかった「ゲームストップ」の株価を巡る混乱が市場心理をを急速に悪化させています。

詳細は報道ベースで知るだけなのですが、時間を追って事態の推移をみてゆくと、次のようになります。時間はいずれも現地時間です。

1月25日(月)ゲームストップ株が急騰
1月26日(火)ゲームストップ株が+90%も上昇。売買代金がアップルを上回る
1月27日(水)ゲームストップ株が1日で2.4倍に上昇、SECが監視を発表、NYダウ急落
1月28日(木)ロビンフッドがゲームストップ株の取引制限を実施
1月29日(金)ロビンフッドが取引制限を解除、SECが調査を発表、NYダウが急落
同、シトロン・リサーチ(ヘッジファンド)が空売り調査を中止と発表、

米国株をずっと追いかけている人であれば、この一件は重大な関心を持って情報を集めていたでしょうが、私自身は「ゲームストップ」も「シトロン・リサーチ」も、SNSの「レビット」も先週になって初めて聞く言葉でした。

手数料が無料のネット証券会社、ロビンフッドのことは昨年夏からしばしば耳にしておりました。ロビンフッドを通じて頻繁に株式の取引を行う「ロビンフッダー」が急増しているというニュースも何度か触れる機会がありました。

しかしそれらの動きが発展してマーケットをこれほどまでに揺るがすようになるとは、想像もしていませんでした。今の米国の株価はバブルであって、それはどこかで破裂するという論調もずっと指摘されていました。史上最高値にあっただけに警戒はしつつも、こういう形で綻びが露呈してくるとは思ってもみませんでした。

短期的な売買を繰り返すロビンフッダーがここまで勢力を持ったのは、トランプ政権下のコロナ対策で米国民全員に支給した給付金と、金融緩和で資金がジャブジャブに市中に出回っているFRBの金融緩和が背後にあると指摘されています。言ってみればコロナ危機がもたらした「もうひとつの事実」です。

先週開催された今年最初のFOMCの後の記者会見で、パウエル議長はゲームストップ株の乱高下について問われた時、「個別銘柄にはコメントしない」と質問をあっさりとかわしました。この冷淡な態度が株式市場にとってよくなかったのかもしれません。

あるいは世界中で半導体が不足しており、調達が困難なことから大手自動車メーカーが減産を強いられています。ひょっとしたら株価下落の真因はこの点にもあるのかもしれません。半導体に限らず、コンテナ船、トウモロコシ、鉄スクラップ、至るところで需給関係が混乱しています。それらがすべて合わさって、世の中に不穏な空気を生み出している可能性もあります。

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ただ私自身に関して言えば、株価下落の一因としてもうひとつ、政権発足から10日間が経過したバイデン政権の政策の失敗にも原因があるのではないかと考えております。

ひとつは対中国、もうひとつは対ロシアです。わずか1週間でふたつも大きな失敗を犯しました。

1月25日(月)、中国の習近平国家主席は、オンラインで行われたダボス会議の準備会合も冒頭で演説し、「新冷戦は世界を分裂に向かわせ対立させる」と米国のバイデン政権を強く意識した内容に言及しました。

同じようにその講演で「単独主義は傲慢になり、必ず失敗する」とか、「国の違いを尊重して、内政に干渉するべきではない」とか、米国に向けた強いメッセージを述べました。トランプ政権が去ったばかりの米国に対して、習近平国家主席は対話の再開を求めたと各国メディアが一斉に報じています。

これに対してバイデン政権のホワイトハウス報道官は「中国への対応は過去数か月と同じ」と述べ、トランプ政権の強硬路線を維持する方針を示しました。それと同時に「中国への新しい方針の策定には【戦略的忍耐】を持って臨む」と述べました。

誰もが知っていることですが、「戦略的忍耐」というキーワードはオバマ政権が対北朝鮮に対して採った態度で、これがまったく失敗に終わったことはすでに明らかにされています。ホワイトハウスの報道官はそれを知らないはずはありません。

メディア各社のホワイトハウス担当者は、現在は慣例上の「100日間のハネムーン」にあるため、この件では静観を保っています。しかしひとたび論評が始まれば黙ってはいないでしょう。

中国はワクチン外交でアジアやアフリカ諸国を次々と味方に引き込んでいます。ことワクチン接種に限れば、バイデン政権は「米国第一主義」をそのまま踏襲しています。プラスの得点をひとつも挙げられないまま、減点ポイントが加算されています。

ロシアとの間では、新戦略兵器削減条約(新START)の延長の問題です。バイデン大統領とプーチン大統領が行った最初の電話会談で、2月5日に期限が迫っていた新STARTを5年間延長することで合意しました。

経済的に厳しい状況にあるロシアにとって、これ以上の軍拡競争には耐えられません。国内で反政府デモが活発化しているロシアで、プーチン大統領にとって新STARTはなにがなんでも延長に持ち込まなければならない状況でした。

ロシアの大統領府は電話会談でバイデン大統領から延長合意を取りつけたあと、すぐに外交ルートの覚書を交わし、ロシア議会には5年延長の法案を送付しました。

そして1月27日に、わずか1日という記録的なスピードで議会での審議を終えてこれを承認しました。ロシア国営放送は「プーチン大統領の外交的手腕が遺憾なく発揮された、偉大な成果である」と盛んに報じています。

必要以上に事態の悪化を強調するわけではありませんが、内政も外交も難問が山積みされているバイデン政権にとって最初の試練が到来しました。株価の下落をどのように食い止めてゆくのか、今週からのマーケットの動きを注視する必要があります。

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気がかりなことと言えばもうひとつ。「GAFA」の行方です。先週はアップル、フェイスブック、テスラが決算発表を行いました。コロナ危機下にあっていずれの企業も驚くべき高収益を謳歌していますが、株価は決算後にいずれも下落しました。

アップルの10-12月期の決算は、売上高が1114.3億ドル(前年比+21%)、純利益が287.5億ドル(+29%)となりました。いずれも市場予想を上回り、売上高は初めて1000億ドルの大台を突破しました。

フェイスブックの10-12月期の決算は、売上高が280.7億ドル(+31%)、純利益が112.1億ドル(+53%)でした。コロナ危機でネット広告の出稿が増えています。

テスラの10-12月期の決算は、売上高が107.4億ドル(前年比+46%)、純利益が2.7億ドル(+2.6倍)となりました。通期で初めて黒字を達成しています(純利益は7.2億ドル)。

これほどの高収益にもかかわらず、3社とも発表後の株価はプラス方向には反応しませんでした。株式市場全体がゲームストップ株の乱高下に翻弄されてしまった可能性もありますが、企業業績のよいところはすでに十分織り込まれた可能性も捨てきれません。

そしてそれは日本も同じです。東京エレクトロン(8035)、アドバンテスト(6857)、ディスコ(6146)、半導体関連株のいずれもが決算発表をきっかけに大きく下落しています。9か月累計では業績はよいのですが、足元の3か月間だけを取ればわずかに伸び率が鈍化して見えます。

やはり今後も半導体関連株の行方が市場全体のカギを握っています。何がプラスで何がマイナスか、てんびんにかけてゆくと以前からマーケットではマイナス要素の方が多くなっていたのですが、数少ないプラス要素がプラス方向に効かなくなっています。市場の動きを警戒する時間帯に入ってきたようにも感じられます。

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株式市場の動きですが、1月第4週の株式市場はTOPIXが大幅に反落しました。前の週の上昇幅はわずか+0.002%ときわめて小さかったのですが、それが大きく下落しました(-2.58%)。

1週間の下げ率としては昨年10月第4週(-2.83%)以来の大きさです。米大統領選後の上昇がいったん出尽くしたかのような形となりました。

物色の方向性としては、これまでの大型株物色が一転して、大型株ほど下げが大きくなっています。ただし東証マザーズ指数も反落しており、前の週に記録し多+6%を超える上昇が、そのまま▲6%超の下落となっています。ここでも米国の「GAFA」に連動しているような動きです。グロース株が全体に軟調です。バリュー株は堅調さが目立ちます。

安全資産への逃避が始まっているのか、REIT指数は2週続けて大きく上昇しました。

TOPIX-17業種のセクター別の騰落では、値上がりしたセクターが3業種にとどまり、14業種が値下がりしました。年明け以降では最も軟調な対比となりました。

値上がりトップは「不動産」です。決算発表を行ったヒューリック(3003)、野村不動産HD(3231)を筆頭に、東急不動産HD(3289)、三井不動産(8801)などがいずれも週末は逆行高となりました。

REIT指数が完全に逆行高を示していることと連動しているように見えます。巣ごもり消費の影響でネット通販が盛んになっており、物流施設はどこも満杯の状態が続いているようです。リモートワークの進展でも不動産市況はさほど悪化しておりません。

不動産に続く値上がりセクターは「食品」と「医薬品」です。ディフェンシブ的なセクターだけが小幅上昇にとどまりました。ニチレイ(2871)、味の素(2802)という冷凍食品メーカーや、六甲バター(2266)、カルビー(2229)、森永製菓(2201)、日清製粉(2002)、エバラ食品(2819)、キユーピー(2809)などの巣ごもり消費関連株が、週前半の貯金で堅調に推移しました。

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値上がり業種のチャート(日足、直近3か月)

「不動産」
https://quote.jpx.co.jp/jpx/template/quote.cgi?F=tmp/hist_index&basequote=287&mode=D

「食品」
https://quote.jpx.co.jp/jpx/template/quote.cgi?F=tmp/hist_index&basequote=271&mode=D

「医薬品」
https://quote.jpx.co.jp/jpx/template/quote.cgi?F=tmp/hist_index&basequote=275&mode=D

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反対に値下がりした業種は、「鉄鋼・非鉄」がワーストでした。鉄鋼株は3週連続での下落で、とりわけ大手鉄鋼株は年明け以降の安値を更新しています。半導体が足りずに自動車セクターが減産に向かうとしたら、鉄鋼セクターにも影響が及ぶと見られます。

他の値下がりセクターには「機械」、「自動車・輸送機」、「電機・精密」という製造業の中核的な業種が軒並み入りました。いずれも日経平均で29,000円手前までの上昇をけん引してきたセクターばかりで、それだけに相場全体が転機に差しかかったようにも感じられます。

今年は節分が2月2日です。株式市場には「節分天井、彼岸底」という格言があります。米国市場の動向次第ですが、短期的な調整は避けられない模様です。日経平均で見た場合、28,000円を割り込んだところですが、当面はPBR(株価純資産倍率)で1.15倍の26,300円、もしくは1.10倍の25,100円を考えておくべきかと思います。

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値下がり業種のチャート(日足、直近3か月)

「鉄鋼・非鉄」
https://quote.jpx.co.jp/jpx/template/quote.cgi?F=tmp/hist_index&basequote=277&mode=D

「機械」
https://quote.jpx.co.jp/jpx/template/quote.cgi?F=tmp/hist_index&basequote=278&mode=D

「自動車・輸送機」
https://quote.jpx.co.jp/jpx/template/quote.cgi?F=tmp/hist_index&basequote=276&mode=D

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それにしても報道ベースでは株価の刺激材料には事欠きません。この週末に日本経済新聞に掲載されたニュースの中から、将来の株価に影響しそうな話題を列挙しておきます。

(後略)

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