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2023年6月19日

FOMCと日銀決定会合が過ぎ、日経平均はバブル崩壊後の高値を更新

鈴木一之

鈴木一之です。日経平均は先週も週足ベースで続伸しました。これで10週連続の上昇です。しかも上昇続きの10週間の中でも最も上昇幅の大きな1週間でした。

米国ではFOMCが開催され、日本でも日銀・金融政策決定会合が開かれて、そして衆院の解散・総選挙は見送りとなった密度の濃い1週間でした。

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先週はエーザイ(4523)が開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」が、FDAの諮問委員会によって正式承認を勧告されたというニュースからスタートしました。

FDAが正式に承認すれば、日本や欧州でも続けて承認され、難病であるアルツハイマー病治療薬が世界で一気に普及する可能性が高まります。

しかしエーザイの株価はすでにこの材料を先取りして大きく上昇していたために、週明けに急騰した後は週を通じて軟調な動きを余儀なくされました。

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いわゆる材料出尽くしです。金融政策を巡ってもエーザイの値動きと同じような展開が今週は世界中で見られました。

6月13日からFOMCが始まる米国の株式市場では、NYダウ工業株がそれまでに6日続伸して4か月ぶりの高値まで進んでいました。同じようにNASDAQは1年2か月ぶりの高値、S&P500は8か月ぶりの高値に達しました。

13日には5月の米CPIが発表され、2年2か月ぶりの低水準となる+4.0%(前年比)でした。この結果を受けてFOMCでは、政策金利据え置きが決定されるとの見方が広がり株価を押し上げました。

そのFOMC。利上げ見送りが6月14日(水)に正式に発表されました。2022年3月から始まった今回の利上げ局面で「据え置き」の決定は初めてのことです。

それとともに発表された経済見通しでは、GDP見通しが引き上げられ、2023年末の政策金利は5.6%(中央値)となり、前回の3月見通し(5.1%)から引き上げられました。0.25%の利上げを続けたとして、あと2回の利上げが必要になります。

この時点で市場の見通し(年内の利上げはあと1回)よりは強めの内容となりましたが、パウエル議長は記者会見で、次回の7月FOMCは「その時々の経済データで」判断が変わると述べました。

マーケットは金利据え置きとの発表直後に株価が下落し、金利も上昇しましたが、パウエル議長の会見直後からは反転して「株高・金利低下」に傾きました。

議長は表現としてはタカ派的なことを強調していた一方で、「その時々の経済データ」に沿っていけば、現実の経済はおそらく景気の鈍化を示すことになるはずで、結果として年2回の利上げは行われないだろう、との判断に傾いたようです。

NY市場でも物色の中心は生成AI関連株です。引き続きテクノロジー銘柄に物色の方向性が向かっています。AI関連株はすでにバブルの域に達しているとの見方も増えつつあるようです。

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6月15日(木)には欧州でECB理事会も開かれ、前回と同じく0.25%の利上げが決定されました。

これで8会合連続での利上げです。2001年5-8月以来、22年ぶりの高い水準となります。欧州では引き続きインフレ基調が強く、経済よりも物価の安定を優先しています。

記者会見でラガルド総裁は「(利上げの停止は)考えていない」と述べ、経済データ次第だとしながらも、次の7月会合でも利上げ継続とのスタンスを示しました。

6月16日(金)には日銀も金融政策決定会合を開催し、そこで現在の大規模な金融緩和の継続を決定しました。日本でもインフレ率は4月・CPIで+3.4%に達しているものの、今年後半にはプラス幅の縮小が予想されることが根拠とされました。

植田総裁はその上で、目指すべきは「賃金の上昇を伴う形」での2%の物価上昇が持続的・安定的に実現することとしています。

今年の賃上げは+3.66%と30年ぶりの高い水準に達しましたが、実質ベースでは4月も前年比▲3.0%と13か月連続でのマイナスです。この点でさらに金融緩和が必要だと判断したと見られます。

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その一方で、日本の景況感は徐々に明るさを増しています。6月15日(木)に発表された4月・機械受注統計では、「船舶・電力を除く民需」は前月比+5.5%の伸びとなりました。3か月ぶりのプラスです。

事前の市場予測は+3.0%でしたので、それを上回りました。デジタル投資の効果で金融業・保険業が+55.2%、運輸業・郵便業が+7.6%など、非製造業が3か月ぶりのプラスで牽引役となっています。内閣府は基調判断は変更せず「足踏みがみられる」としています。

また6月13日(火)に発表された4-6月の法人企業景気予測調査では、大企業・全産業の景況判断指数(BSI)は+2.7となり、2四半期ぶりにプラスに浮上しました。

ここでも経済再開で非製造業が+4.1と安定した伸びを示しており、3四半期連続でのプラスでした。宿泊、飲食などサービス業が+11.7、運輸業、郵便業が+17.6と好調です。反対に製造業は海外の需要が弱く▲0.4にとどまりました。

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中国経済は依然としてぱっとしません。6月15日に発表された5月の中国・工業生産は前年比+3.5%の伸びにとどまっています。4月の+5.6%から鈍化しました。昨年のロックダウン明けの反動が弱まっています。

鋼材は▲1.3%、セメントは▲0.4%、パソコンは▲18.8%にとどまりました。自動車は+17.3%と前年比でプラスを維持していますが、これも4月の+59.8%からは縮小しています。

中国の5月・小売売上高も+12.7%と増加しましたが、4月の+18.4%からは伸びが鈍っています。1-5月の固定資産投資も+4.0%で、1-4月の+4.7%からは伸び率が鈍化しました。民間企業の投資も▲0.1%の減少に転じています。

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為替市場では、円が一段安となっています。欧米と日本の金融政策の違いが一段と鮮明になったため、円は対ユーロで15年ぶりの安値となる155円台を記録しました。

対ドルでも円は一時141円台後半まで下落し、昨年11月以来、7か月ぶりの円安ドル高となりました。金利の低い円を売って、金利の高いドルやユーロを買う「キャリートレード」が活発化しています。

現在の為替のレベルは、昨年秋に為替介入が実施された145-151円台に接近しています。ここからさらに円安が進めば、再びマーケットと通貨当局の思惑がぶつかり合う場面も出てきそうです。

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先週の東京株式市場は、TOPIXが3週連続で上昇しました。上昇率は+3.41%に広がり、前の週の+1.91%を大きく上回っています。

規模別の騰落では、引き続き海外勢の買いによって大型株が優勢です。そこに先週は小型株の劣勢挽回も急速に進みました。週間の騰落率では、大型株が+3.77%の上昇したのに対して、小型株も+2.94%となりました。東証マザーズ指数も+7.45%と大きく上昇しています。

スタイル別ではグロース株の優位性が復活しています。大型バリュー株が+3.38%と大きく上昇したのに対して、大型グロース株も+3.55%で、バリュー株の上昇を上回りました。配当フォーカス100指数は10週連続で上昇しています。

日経平均採用銘柄のうち、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る銘柄数は87銘柄まで、1週間で10銘柄も減少ました。採用銘柄(225銘柄)の39%を占めるまでに低下しています。

テクニカル面では、騰落レシオが週末は110.62%に落ち着いています。日経平均は33年ぶりの高値圏にありますが、値上がりする銘柄の数はそれほど増えておらず、テクニカル上の過熱感は薄れています。日経平均のサイコロジカルラインは「8」から「9」の間で推移しています。

日経平均ボラティリティ指数は3週ぶりに低下しました。

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TOPIX-17業種のセクター別騰落は16業種が値上がりし、下落したのは「電力・ガス」の1業種のみとなりました。

値上がり上位のセクターは「自動車・輸送機」、「商社・卸売」、「機械」となっています。「商社・卸売」は前週に続いて上位に登場しています。驚くべきことです。

「自動車・輸送機」はついにトヨタ自動車(7203)が動き出しました。海外投資家の資金の受け皿として、最も出遅れているトヨタにも出番が巡ってきたようです。

10分間の充電で1200キロメートルの航続距離が得られる全固体電池の開発に成功したことが株価を押し上げました。

トヨタ自動車に連動して、デンソー(6902)、アイシン(7259)、豊田自動織機(6201)、愛三工業(7283)、ジェイテクト(6473)などのトヨタグループ各社も一斉に上値を追いかけました。

自動車業界全体で半導体の調達不足が平時に戻りつつあり、生産の回復が進んでいることが背景にあると見られます。マツダ(7261)、スバル(7270)、ホンダ(7267)も堅調です。

自動車業界と親密な関係にある機械セクターでも、同じように株価の上昇が顕著となっています。

オークマ(6103)、DMG森精機(6141)、牧野フライス製作所(6135)の工作機械メーカー各社が続伸しており、さらにコマツ(6301)、日立建機(6305)の建設機械メーカーや、イワキポンプ(6237)、アネスト岩田(6381)、平田機工(6258)などの設備投資関連株の株価が堅調です。

出遅れ銘柄への物色と言えば、クボタ(6326)もようやく動きが見られました。農業機械の世界的なメーカーであるクボタが動意づき、水処理プラントの荏原製作所(6361)や建設機械の竹内製作所(6432)も上場来高値を更新しています。

ウクライナがロシアに対して大規模な反撃を開始しています。戦況の行方はまるで見通しが立ちませんが、もしかしたらマネー市場はロシア・ウクライナ戦争の早期決着を読み込み始めたのかもしれません。欧州の戦後復興・復旧をサポートする銘柄群に資金が回り始めたと見ることは早計でしょうか。

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値下がりセクター、あるいは上昇率の小さかったセクターの上位は「電力・ガス」、「医薬品」、「運輸・物流」となりました。ディフェンシブ的な業種にはおとなしい動きが目立ちます。

米国および世界経済の年後半のリセッションは避けられない、という見方は依然として強いものの、マーケットでは景気敏感株が好んで物色されています。反対にディフェンシブ的な銘柄が人気の圏外の置かれつつあります。

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話題に満ちあふれた先週の相場展開ですが、大トリは衆院解散・総選挙を見送るという岸田首相の決定です。突如として政界に吹き荒れた早期解散の主戦論はたちまち消滅したようです。

立憲民主党が提出した内閣不信任決議案は6月16日(金)に衆院で否決されました。当初はこれを機に

(後略)

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鈴木一之