ブログ

2023年8月15日

米国の地銀10行が格下げ、日本では決算発表がピークを迎える

鈴木一之

鈴木一之です。今年の夏も最盛期を迎えています。4年ぶりに行動規制のないお盆休みを迎えて、日本中が喜びに沸いています。

ところが台風6号~7号の接近によって少しもゆっくり休めません。8月9日の「長崎原爆の日」は、台風6号が接近したことで平和祈念式典の会場が予定されていた平和公園から、屋内の「出島メッセ長崎」に変更して行われました。

その影響で式典の規模が大幅に縮小され、参列者は被爆者の代表と市長、市議、市職員に限られ、犠牲者の家族の方が式典に参加できず一般参列も受け付けないなど、残念な結果となってしまいました。

また記録的な今年の猛暑も世界各地で大きな被害をもたらしています。

ハワイ・マウイ島で発生した山火事は、折からの強風が重なってあっという間に市街地に燃え広がっています。現時点で死者が80人を越えるほどの大災害となってしまい、2030年を目標に温暖化を防げ、という現在の規制レベルでは間に合わないほど、身近で深刻な脅威となりつつあります。

@@@@@

先週も金融市場では様々な動きが見られました。週初はアップルの4-6月期の決算内容がかんばしくなく、テクノロジー株の下落によって日経平均は32,000円を割り込む場面が見られました。

日米そろって「サマーバケーション」の真っただ中にあり、ボリュームが減少気味となっています。株価には大きな方向性が出にくくなっていますが、週を通じて最も注目されたニュースは何と言っても米国の地銀10行の格下げです。

現地8月8日(火)、ムーディーズは米国の中小銀行10行の信用格付けを引き下げました。同じくステート・ストリートなど大手銀行も格下げ方向にあると発表したために、銀行セクターに対する不安が再び広がり、NYダウ工業株はこの日、一時は▲450ドルも下落する場面がありました(終値は▲159ドルまで戻しました)。

前の週はフィッチ・レーティングスによる米国債の格下げがあったばかりです。信用リスクに目が向けられているところへ、再び飛び出した今回のニュースでマーケットには少なからぬ波紋が広がっています。

ムーディーズが地銀の格下げを行った最も直接的な理由が、商業用不動産に対する融資額の大きさです。米国では在宅勤務の定着と景気の鈍化で、オフィス市場の縮小が始まっています。そこに急ピッチな利上げが重なって、地銀各行が保有する不動産債権に含み損が拡大する懸念が広がっています。

格下げが実施されると企業の信用力が下がり、社債の利回りが上昇して資金調達コストが増加します。今回のムーディーズの発表後、地銀株が全体に動揺しましたが、すぐに収まり大事には至りませんでした。しかしこの問題はのちのち、再び蒸し返されることになるとの不安は残っています。

@@@@@

もうひとつ、市場の話題を集めたのが中国に関する一連のニュースです。バイデン政権は中国に対する規制強化を急いでいます。現地8月9日には中国への投資規制に関する新しい制度を導入すると発表しました。

先端半導体やAI、量子テクノロジーを対象に届け出を義務づけて、軍事開発に結びつく技術の流出を一段と強化しました。それに加えてM&A、ベンチャーキャピタル、合弁事業による中国への投資も規制対象としています。中国への規制はモノだけでなく、資金の流れにも発展したことになったと受け止められています。

対中規制はトランプ政権の代から実施されてきましたが、しかしそれらはファーウェイなど中国の特定企業を対象としたもので、これほど広い分野を対象とする規制は初めてのことです。

米国のような世界有数の経済大国が資本移動までを規制するのは極めて異例で、さらに米国はG7など同盟国にも同じような措置を求めています。EUは早くも追随する姿勢を見せており、さて日本はどうするのか。今月実施される日米韓首脳会談の行方がクローズアップされることとなりそうです。

@@@@@

中国の景気動向も不安を投げかけています。

8月8日に発表された中国の7月の貿易統計(ドル建て)は、輸出が2817億ドル(40兆円)で前年比▲14.5%も減少しました。

3か月連続でのマイナスで、パンデミック初期の2020年2月の▲40.6%以来の落ち込みです。パソコン関連が▲30%も減少しました。輸入も▲12.4%減少の2011億ドルとなっており、5か月連続で前年を割り込みました。

7月の中国の消費者物価は▲0.3%の低下と発表されました、2年5か月ぶりのことで、自動車やスマホなどの耐久消費財の値下がりが目立っています。

マンション販売が不振で家具や家電製品も値下がりしています。家賃は2022年5月から低下が続いています。

中国に関してはネガティブな話題ばかりですが、一方で明るい話題と言えば、中国政府は日本をはじめ欧米や韓国など世界78か所の国と地域への団体旅行を解禁すると発表しました。コロナ禍で2020年1月に禁止して以来、3年半ぶりの解禁です。

2019年に1億5000万人を突破した中国の海外旅行客は、最近は個人旅行客に限定され2000万人まで減少しています。その回復が期待され、日本でもデパート、ドラッグストア、ホテル、航空会社など関連業界の株価が先週末は大きく上昇しています。

@@@@@

先週の東京株式市場は、TOPIXが反発しました。前の週に3週ぶりの下落(▲0.70%)となりましたが、すぐに切り返して+1.27%の上昇でした。上昇率では2か月ぶりとなる比較的大きめの上昇です。

規模別では、大型株から小型株までそろって反発しましたが、中でも上昇の目立っているのが中型株です。小型株(+1.20%)、大型株(+0.86%)の上昇に対して、中型株(+2.23%)に達しました。

中型株とは、時価総額で東証プライム市場の101位~500位までの400銘柄に限定されています。それ以上の100銘柄が大型株、それ以下の1300銘柄が小型株です。

中型株には、ニッスイ(1332)、INPEX(1605)、鹿島(1812)、明治ホールディングス(2269)、ロート製薬(4527)など、決算内容のよかった企業が多く含まれています。三越伊勢丹(3099)、Jフロントリテイリング(3086)などのインバウンド消費関連株も多く、先週はこれらの銘柄の上昇が目立っていました。

グロース株もようやく上昇に転じましたが、引き続きバリュー株優勢の展開が続いています。グロース株(+1.08%)、バリュー株(+1.44%)でした。東証マザーズ指数は7週ぶりに反発した後に再び下落に転じました。

日経平均採用銘柄のうち、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回っている銘柄数は93銘柄と前週比変わらずでした。日経平均採用銘柄(225銘柄)の41%を占めています。

騰落レシオは8月8日に95.78%台まで低下したあと、週末は103.37%に上昇しました。週末に100%を上回るのは1か月ぶりのことです。それだけ保ち合い相場の時間が長引いているということの表れです。日経平均のサイコロジカルラインは「7」に上昇しました。

@@@@@

TOPIX-17業種のセクター別騰落は14業種が値上がりして、下落したのは3業種にとどまりました。値上がりセクターの上位は「エネルギー資源」、「不動産」、「医薬品」でした。

値上がりトップの「エネルギー資源」は、INPEX(1605)の上昇が大きく寄与しています。3連休前の8月10日(木)に1日だけで+16%も急騰しました。

原油市況がじわじわと上昇していることが背景にありますが、何よりも前日に決算発表を行って上限8000万株、1000億円にのぼる自社株買いを発表したことがプラスに作用しています。発行株数の6%強に当たり、最近相次ぐ上場企業の自社株買いの中でも日本郵船(9101)と並ぶかなり大きな規模となっています。

値上がり第2位の「不動産」では、決算発表が好感された三井不動産(8801)、大東建託(1878)、東急不動産HD(3289)、東京建物(8804)、野村不動産HD(3231)など大手不動産株が軒並み上昇しています。

覇権争いを続ける米国と中国との間で、期せずしてほぼ同じ時期に不動産セクターに対する厳しい目が向けられるようになっています。一方で日本では、主要国の中では金利水準は破格に低いままにとどまっており、不動産セクターの業容拡大の余地は十分に大きいとの判断ができるように思われます。

YCCの修正を行った日銀の金融政策は、やはり着実に出口に近づいていると見られますが、それでも相対的に世界の流動性の受け皿になり得るとの見方が強いようです。

値上がり第3位の「医薬品」も決算内容を好感する銘柄の急騰が目立ちました。ロート製薬(4527)が+17%も上昇し、久光製薬(4530)、参天製薬(4536)、キッセイ薬品(4547)、大塚HD(4578)、塩野義(4507)、アステラス製薬(4503)が一斉に値上がりしました。

@@@@@

反対に値下がりセクターの上位には「銀行」、「電機・精密」、「機械」が並びました。

「銀行」はムーディーズによる米地銀10行の格下げの影響が日本にも及んでいます。前の週の急上昇した日本の長期金利が低下に向かったことも悪材料としてとらえられました。

それでも群馬銀行(8334)、八十二銀行(8359)、百十四銀行(8386)、千葉興業銀行(8337)が高値を更新しており、銀行セクターに対する買い人気が示されているように見えます。

「電機・精密」と「機械」セクターには、ソニーグループ(6758)の急落が示すように、決算発表の影響が色濃く出ています。

根強い人気を持つ半導体セクターが米国で軟調だったことも影響して、アドバンテスト(6857)、ローム(6963)が軟調でした。

同じく「機械」ではダイキン工業(6367)、

(後略)

日本株に関する情報をいち早くゲット!

ここでしか読めないメールマガジンを配信しています。
登録無料!

鈴木一之