ブログ

2024年9月10日

雇用統計を控えて軟調、日経平均は大きな陰線で4週ぶりの下落

鈴木一之

鈴木一之です。9月になっても暑い日が続いています。それでも日が暮れるのがずいぶんと早くなりました。夕焼けのあかね空が目に染みます。

米国の大統領選に続いて、日本では自民総裁選が次第に熱を帯びてきました。連日のように新たな立候補者が登場しマスメディアを賑わせています。

国民の間から人気の高い小泉進次郎・元環境相も9月6日に立候補を表明し「議論ばかりしている風潮に決着をつけたい」と意気込みを述べています。しかも自民党総裁になった暁には、早い段階で衆院解散・総選挙に踏み切る意向を明らかにしています。政局が大きく動き出しました。

@@@@@

政治の世界のあわただしい動きとは対照的に、先週のマーケットはかなり冷え込んだ展開となりました。

週末に米国の8月・雇用統計の発表を控えているとあって、元から動きの出ない週と目されていましたが、雇用統計の結果を待つことなく市場は動き出しています。

米国経済の弱さを前提として、為替市場ではドル安・円高が進行しています。円は9月5日(木)に142円台後半までドルが下落し、円は3日間で4円も上昇しました。円高は株安に直結します。それもあって先週は広範囲なセクターにわたって軟調な動きが目立ちました。

中でも印象的だったのは9月4日(水)です。日経平均は▲1639円の大幅安となり、8月の急落に続いて今年3番目の下落幅を記録しました。

今週のマーケットは水曜日が事実上の週初めでした。米国の月曜日がレイバーデーの休場だったため、3連休明けの火曜日のNY市場の動きが日本の水曜日に反映されたことによります。レイバデーから米国では秋が始まるそうですね。

その休日明けの火曜日、前週末に史上最高値を更新していたNYダウ工業株は▲627ドルの下落となり、NASDAQは▲577pも下げました。

月初恒例の経済統計データの皮切りとなるISM製造業・景況感指数が47.2となり、前月比ではプラスとなったものの、市場予想を下回ったことから米国のリセッション懸念を助長すると暗雲が立ち込めました。

@@@@@

それ以上に半導体関連株が大幅安となったことが心理的に響いています。代表的な半導体指数のSOX指数は▲7.7%下げ、エヌビディアも▲9.5%の下落を記録しました。

前週に発表された5-7月期の決算は市場予想を上回りましたが、株価はその後軟調に推移しています。市場では巨額のAI関連投資に対して回収できるのかという懐疑論が強まっています。

具合の悪いことにエヌビディアに対しては、司法省から反トラスト法違反の疑いで質問状が発せられたとの報道がこの日は重なりました。

これらのニュースが水曜日の日本の株式市場を直撃して、東京エレクトロン(8035)、ディスコ(6146)、レーザーテック(6920)など半導体関連株の下げを加速させています。それがマーケットのセンチメントを悪化させ、日経平均の大幅安につながりました。

生成AI関連株は米国をはじめ世界中で苦戦を余儀なくされています。セコイア・キャピタルの計算によれば、エヌビディアの主力製品であるGPU(画像処理半導体)の購入額をペイするためには、クライアント各社が合計で6000億ドル(87兆円)の売上高が必要になるそうです。それに対して実際の売上高は1000億ドルにとどまっているそうです。

不足分の5000億ドル(72兆円)が目下のところ過大評価となるわけです。その金額が果たして今後の成長、市場の拡大によって埋められるのか、その点が現在のマーケットでは問われており、クライアントの収益が伸びなければ、来年以降の各社のAI投資が伸び悩む可能性も指摘され始めています。

@@@@@

半導体だけでなく、先週は不穏な動きがあちこちで目立ちました。そのひとつが原油価格の急落です。WTI先物で70ドルの大台を割り込みました。

OPECプラスは自主減産の2か月延長を決定しました。これによって10月以降に予定していた供給拡大が延期されたのですが、それでも原油価格は大きく下落しています。それほどまでに世界的な景気後退による需要低迷の影響が大きいと見ることができます。

ドイツのフォルクスワーゲンはドイツ国内にある10か所の工場のうちのひとつを閉鎖することを検討している発表し、ドイツ国内のみならず世界に対して大きな波紋を投げかけています。

VWがドイツでの工場閉鎖に踏み切るのは1937年の会社設立以来、初めてのことです。現在30万人を雇用している従業員の削減も検討している模様です。VWと労働組合は「2029年まで雇用を保障する」との協約を結んでいますが、それも今回の一連の削減案の中で打ち切られることになる見込みです。

相当に重い決断を下さざるを得ない状況で、VWの労組はさっそく反対の姿勢を示し大規模なデモも辞さない構えです。欧米各社が相次いでEVの生産計画を見直していますが、問題はEV戦略にとどまらず事業全体の見直しに及んできました。

1週間前に実施された旧東ドイツ地区、チューリンゲン州での州議会選挙では、与党SPD(ドイツ社会民主党)が敗北し、極右政党AfD(ドイツのための選択肢)が第1党となりました。インフレに景気後退が重なると政権与党の立場はきわめて厳しくなります。

同時にそれは極右や極左の台頭を許すことにつながります。移民排斥など社会の分断が強まり、コミュニティ内部の対立が激化します。財政的には大衆迎合的な予算が組まれやすく、財政規律が緩むことになりかねません。そこにインフレ拡大、金利上昇の余地が生まれてきます。

@@@@@

世界経済全体としての成長力が鈍ってきたとの判断があるためか、企業買収に関する内外での動きは依然として活発です。

セブン&アイHD(3382)に対するアリマンタシオン・クシュタールからの買収提案は、セブン側が「6兆円という金額は低すぎる」という理由で却下する模様です。

富士ソフト(9749)に対するKKRからの友好的TOBは、ベインキャピタルが後から買収金額を引き上げて参入してきました。KKRは金額はそのままに、TOB期間を速めて対処する方針のようです。

一方で米国においては、日本製鉄のUSスチール買収に暗雲が漂っています。民主党の大統領候補に正式に選ばれたカマラ・ハリス副大統領はこの買収案に慎重なスタンスを表明しました。「USスチールは米国内で所有され、運営されるべき」との意見です。

米国の強い製造業、強い鉄鋼企業、強いアメリカを強調し、大統領選を見据えた労働者寄りの姿勢を打ち出しています。

バイデン大統領はこの買収計画に対して、安全保障の観点から近々正式に中止命令を出すとワシントン・ポストが報じています。中止命令が出されれば、この件における審査プロセスは終了し、誰もこの決定を覆すことはできないため、これ以上手続きを進めることはできなくなります。

日本製鉄は米国での事業戦略を再考する必要が生じてくることになりますが、同時に買収破談に伴う違約金を支払う必要が生じる可能性も指摘されています。経済安保の視点は今後あらゆる分野でつきまとうことになりそうです。

@@@@@
@@@@@

先週の東京株式市場は、TOPIXが4週ぶりに下落しました。8月からの戻り歩調はいったん途切れることとなりました。週間の下落幅は▲4.25%とかなり大きくなっています。

規模別指数では、大型株が▲5.12%と最も下げが大きく、中型株は▲2.40%、小型株は▲2.99%にとどまりました。大型株主導の反落がはっきりと見てとれます。

スタイル別では、大型グロース株の▲5.13%に対して、大型バリュー株が▲3.61%となりました。広範囲に下落が見られましたが、特にグロース株の下げが目立っています。

騰落レシオは114.51%。日経平均のサイコロジカルラインは「6」といずれも中立的な水準です。

@@@@@

TOPIX-17業種の動向では、値上がりが1業種、値下がりが16業種に広がりました。

唯一の値上がりセクターが「食品」です。以下、下げの小さかったセクターは「小売」、「運輸・物流」と比較的ディフェンシブなセクターが占めました。

「食品」では、円高メリットのカルビー(2229)、湖池屋(2226)、プリマハム(2281)を筆頭に、亀田製菓(2220)、ヤクルト本社(2267)、ハウス食品(2810)などが値を保ちました。

「小売」セクターでは、エービーシー・マート(2670)、JINZ(3046)、ユナイテッドアローズ(7606)、ZOZO(3092)が堅調です。ここでも円高メリット銘柄が目を引きます。

「運輸・輸送」では東急(9005)、

(後略)

日本株に関する情報をいち早くゲット!

ここでしか読めないメールマガジンを配信しています。
登録無料!

鈴木一之