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2024年10月1日

決戦の金曜日、自民党総裁選を先取りして急騰、引け後に急落

鈴木一之

鈴木一之です。夏が去り秋が訪れ、季節は目まぐるしく移り変わります。衣替えに忙しい時期でもあります。

先週は株式市場にも大きな変化が見られました。週末の自民党総裁選を巡るどんでん返しは後段で触れるとして、まずは1週間を通じた株式市場の概観から見ておきます。

<先週の日経平均の動き>

9月23日(月):(秋分の日で休場)
9月24日(火):37,940円△217円
9月25日(水):37,870円▲70円
9月26日(木):38,925円△1,055円
9月27日(金):39,829円△904円

週を通じて堅調な値動きとなりました。水曜日に小幅マイナスを記録した日を除けば、立ち合い4日間のうち3日上昇するという安定感でした。

特に9月27日(金)は9月末の権利落ち日で、この日は日経平均採用銘柄の配当分が合計で▲260円程度と見られていました。

その分だけ下落して当然という日ですが、それを即日埋めての大幅な上昇となりました。前日の木曜日と合わせて、今年初めて2日続けて上昇幅が(実質的に)△1000円を越える大幅高でした。

しかしこれにはさすがに株式市場のほとんどの参加者が首をかしげたものです。9月末という「月末、四半期末、上半期末」という節目の週に当たっており、果たしてそれだけで今のマーケットにそれほどまでの上昇力が備わっているのかと疑問符がつきまといました。

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9月26日(木)に△1,055円の大幅高を記録した時の理由は以下のようなものです。

(1)先週の米FOMCでの利下げ(▲0.5%)がいまだ効果的
(2)中国が景気刺激策を発動(預金準備率の引き下げ)
(3)半導体セクターの急上昇(マイクロンテクノロジーの好決算)
(4)9月末要因で配当金の再投資(1.2兆円)への期待
(5)自民党総裁選後の衆院解散・総選挙での景気対策への期待

これらの要因はどれひとつをとってもかなりのインパクトを持つ買い材料です。

(1)の米国の金融緩和政策への転換は、不安視されてきたリセッション入りへの不安を吹き飛ばすものです。その景気刺激効果は1週間程度では市場にすっかり織り込まれたとは言い切れず、NYダウ工業株は連日で史上最高値を更新しています。

同様に(2)の中国の景気刺激策への転換も、マーケットでは長らく待望されていた材料です。中国の不動産を巡る不良債権処理は、金融政策だけで解決できるものではありません。日本の経験からしても公的資金の注入という財政政策が不可欠です。

今回の預金準備率の引き下げ、金融政策のパッケージだけでは力不足であることは否定できませんが、それでも欧米の株式市場を含めて、世界中が中国政府の措置を好感しています。このあとも景気刺激策が続けて打たれるとの期待が浮上しています。

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(3)半導体セクターの急反発も大きなインパクトとなりました。特にメモリー大手のマイクロンが今期以降の好決算見通しを発表し、それを市場が好感して株価が大幅高となったことが特に重要です。生成AIの需要はエヌビディアだけにとどまらず(それが不安材料となっていました)、メモリーにも波及し始めたことは朗報です。

しかし木曜日の株高の要因は、何よりも(4)の配当金の再投資(1.2兆円)への思惑が大きかったように思います。

最近のマーケットの特徴は、月末に株価が大きく動く点にあります。その主因が配当金の再投資にあるとされています。9月末は3月末とともに年間で配当金が最も多く支払われ、その分の再投資が早くも先物市場で出てきたと見られます。

配当金の再投資はあくまで一過性のものです。したがって木曜日の株価上昇もイレギュラーなものであり、値幅ほどにはインパクトのあるものではないとの見方も一部には存在しました。市場は半ば首をかしげながらも、今回の株高を冷静に受け止めようとしていました。

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それが金曜日の株式市場でも、実質的に△1000円を越える大幅高を記録して冷静ではいられなくなってきました。日経平均はあっという間に4万円の大台回復に迫っています。

ここで至ってようやく、(5)の自民党総裁選をにらんだ思惑、という線が濃厚になったように見られます。

過去最多の9人で争われた自民党総裁選。告示から投票まで15日間と長い選挙期間中、世論調査を取るたびに誰が次期総裁に有力かとの情報が入れ替わり、最後まで行方の分からない緊迫した争いとなりました。

結果はご存じのように、石破茂・元幹事長が5度目の挑戦で勝利を収めました。

しかし9月27日(金)の第1回目の投票では、高市早苗・経済安全保障相がトップとなり、その結果が伝わった13時過ぎから株価の上昇スピードが一段と加速しました。

高市氏の経済政策は「アベノミクスの継承」です。サイバーセキュリティなど危機管理や成長分野への投資を進める積極財政を支持し、同時に金融政策に関しても、アベノミクスど同様に金融緩和の継続を前面に打ち出しています。今回の日銀の金融政策の転換に関しては強いトーンで否定の見解を明らかにしました。

株式市場にはいまだに2012年暮れの「アベノミクス」登場の記憶が鮮明に残っています。今回もマーケットは「アベノミクスの再来」をことのほか評価している模様です。為替市場では円安・ドル高が進み、それが株価の上昇を一段と刺激して、金曜日の大引けまで「高市総裁」の誕生を両手を挙げて歓迎するという姿勢を見せていました。

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ただしその一方で、高市氏の保守的な政治姿勢を不安視する意見も存在します。選択的夫婦別姓には慎重なスタンスで、靖国神社への参拝は首相に就任した後も行う意向を表明しています。

歴史上最良とされる現在の日韓関係は大丈夫なのか。「岩盤保守層」を支持基盤とする自民党・旧安部派をバックとするだけに、政治資金問題が争点に浮上すると弱い側面も併せ持っています。

トップの高市氏と第2位となった石破茂・元幹事長による決戦投票が実施され、石破氏215票、高市氏194票で、石破氏が逆転勝利を収めました。石破氏が自民党第28代総裁に選ばれ、10月1日に召集される臨時国会で第102代首相に指名されます。

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この結果が伝わったのが金曜日の15時過ぎ。現物市場の取引は終了していましたが、そこから先物市場やCFD市場が急落し、大阪取引所の先物価格は▲2410円の37,440円、CFD市場の日経平均は▲2422円の37,337円で引けています。

「高市首相」への理想買いは急転直下、「石破首相」の実現で現実売りに変わり、日経平均先物市場は4万円目前が37,000円台に、金曜日の終値から▲2400円も下落しました。期待の剥落はすべて、金曜日の現物取引の終了後に起こっています。

この相場急変は、石破氏への評価というよりも、高市氏が掲げた「アベノミクスの再現」への期待が剥落した結果です。すべて石破氏の経済政策をネガティブにとらえたものとは考えにくいのですが、その点が月曜日以降に時間をかけて評価されることになります。

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実際に石破氏が総裁選の間に主張した経済政策は以下のようなものです。

・経済成長:3年でデフレ脱却、最低賃金1500円(2020年代、全国平均)
・エネルギー:原発、再エネの活用(岸田政権の政策を踏襲)
・財政・金融:法人増税、「1億円の壁」是正、日銀の独立性を尊重
・地方創生・人口減:婚姻率の上昇、東京一極集中を是正

石破氏を語る上で焦点となるのは、金融所得課税です。総裁選の討論会でも再三取り上げられました。

この点については「1億円の壁」是正との兼ね合いとなります。所得が1億円をこえると急激に所得税率が下がる「1億円の壁」が存在します。この是正を目指す上で高所得者の負担を増やす「金融所得課税の強化」が浮上し、マーケットでは常にネガティブにとらえられてきました。

岸田首相の経済政策を踏襲するのであれば、新NISA導入で盛り上がる「貯蓄から投資」への流れに水を差すことは避けなくてはなりません。海外投資家も岸田政権のこの政策を高く評価しています。

防衛費の増額に関連する財源の確保も含めて、増税をどのように扱ってゆくのか。石破氏は極端な「財政再建論者」とは見られておらず、すぐに緊縮財政、増税に突き進むとは考えにくいところです。週明けからのマーケットではその辺りが問われることになります。財務相、経済閣僚の顔ぶれが非常に重要になります。

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先週の東京株式市場はTOPIXが続伸しました。上昇率は前週の+1.73%から+3.73%に拡大し、日経平均、TOPIXともに戻り高値を更新しています。

物色の中心は引き続き大型株です。大型株指数は+4.03%、それに対して中型株指数は+3.51%、小型株指数は+2.03%にとどまりました。日立、富士通、三菱重工業などの中核銘柄に集中した上昇が見られます。

スタイル別でも前週までと同様、グロース株がバリュー株を上回っています。大型グロース株は上昇率が+4.84%に拡大し、前の週の+2.38%からさらに上昇しました。大型バリュー株も上昇率は+2.96%まで拡大しています(前週は+1.10%)。

プライム市場の騰落レシオは、週初の106.47%から週末には115.70%まで高まりました。値上がり銘柄数が次第に増えています。日経平均のサイコロジカルラインは「7」まで高まりました。9月4日以来の水準です。

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TOPIX-17業種の動向では、値上がりセクターが16業種、値下がりセクターは「銀行」のわずか1業種でした。

値上がり上位のセクターは「機械」、「電機・精密」、「不動産」となりました。前の週と顔ぶれが似通っています。

値上がりトップの「機械」は2週連続で上昇率がトップとなりました。中国が景気刺激策に転換したことがてきめんに影響していると見られます。

三菱重工業(7011)、IHI(7013)、日本製鋼所(5631)の防衛関連株が引き続き物色の中心です。それに続いて荏原(6361)、ダイキン工業(6367)、SMC(6273)、ダイフク(6383)、コマツ(6301)などの機械セクターの中核銘柄が一斉に大きく買われています。本当に久しぶりのことです。

値上がり第2位の「電機・精密」でも、トップの「機械」と同様の値動きが見られました。日立(6501)、三菱電機(6503)、富士電機(6504)、安川電機(6506)の重電各社が一斉に動意づいています。

そればかりでなくNEC(6701)、富士通(6702)のミサイル防衛関連株や、ソニーグループ’6758)、TDK(6762)、ファナック(6954)、アドバンテスト(6857)、東京エレクトロン(8035)などの半導体、ロボット、電子部品株も堅調さを取り戻しました。

ここまでの上昇は前の週と同様ですが、先週はこれに「不動産」セクターが加わります。値上がり第3位に浮上しました。

三井不動産(8801)、

(後略)

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鈴木一之