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2024年3月20日

日経平均は週足で2週連続の下落、調整ムードが強まる

鈴木一之

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先週の株式市場は調整局面入りが色濃くなりました。年明け以降の力強い株価上昇が一服し、あらゆる点で転換点に差しかかったことが示されたような値動きでした。

週足ベースで、日経平均は2週連続で下落しました。TOPIXは7週ぶりの下落で、同時に7週ぶりに週足陰線を記録しました。東証の大型株指数、プライム指数も同様です。

NY株式市場でも、NYダウ工業株は2月23日の週に史上最高値をつけて以来、3週連続で週足下落となりました。NASDAQも最も遅れて史上最高値を更新した後、2週続けて週足陰線です。

それらの動きとは反対に、コモディティ市場に活気が移りつつあります。金(ゴールド)は今週、史上最高値を更新しました。

市場を驚かせているのは、金価格を押し上げるような買い材料がほとんど見当たらないままに上昇が続いていることです。

原油市況はWTI先物が81ドル台で引け、週足で大きく上昇しました。終値は昨年10月末以来の高水準です。

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調整色の強い市場の動きを導いているのが、米国の長期金利です。米10年国債金利は4.3%に乗せて週間の取引を終えました。昨年11月末以来の高水準です。これがすべての原因になっていると言えるかもしれません。

今週はいよいよ3月FOMCが開催されます。年初から特に株式市場で観測された「年6回の利下げ」という楽観的な見方は、今ではほぼ姿を消し「年3回の利下げ」に収斂しつつあります。

以前までの「今回6回の利下げ」見通しは、3月のFOMCから利下げがスタートするという前提に立っていました。ところがいざ3月になってみると、利下げどころではありません。インフレ指標はじわじわと高まり、1月に続いて2月も米CPIは市場予想を上回りました。(2月は前年比+3.2%、予想は+3.1%。2月のPPIも予想を上回る伸び)

予想物価上昇率は1月よりも2月が切り上がっており、経済統計はFRBの当初の意図に反して経済の強い拡大傾向を示しています。

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金曜日に米10年国債金利は4.32%まで上昇しました。仮に来週のFOMCで示されるドットチャートが少しでも上方修正されるようだと、債券市場にはかなり強い影響が出る可能性があります(金利上昇の方向に)。

FRBの利下げ開始の時期がうしろに遠ざかるとの見方が広がり、週末の米国時間にドル円相場は1ドル=149円前半までドル高・円安が進みました。週前半と後半とで為替市場のセンチメントががらりと変化しています。

週前半は円高・ドル安の流れが強まりました。週初は146円高半ばまで円高が進み、来週の日銀・金融政策決定会合でマイナス金利が解除されるとの方向に大きく傾いていることを反映しています。

それが週の取引が進むにつれて、再びドル高・円安に転換しました。「FedWatchTool」では、年末までの利下げ回数の見通しはいまやはっきりと「3回」になりつつあります。

なかなか下がらない物価見通しに対して、債券市場のみならず株式市場も徐々にスタンスが変化しつつあります。コモディティ市場での幅広い上昇、株式市場における半導体、生成AI関連株の全面的な下落、そして低バリュー株の全面的な上昇が始まっており、市場心理は右に左に大きく揺さぶられています。

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目前に迫った中銀ウィークへの警戒感から、金融市場の動きがどうしても鈍っているのに対して、私たちの周囲では歴史的な出来事が連続して起こっています。世の中の目まぐるしさだけは一向に衰えません。

週明けには今年のアカデミー賞に日本のふたつの作品が同時受賞するという快挙が伝えられました。

ひとつは宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」が長編アニメーション賞に、もうひとつは視覚効果賞に山崎貴監督らの「ゴジラ-1.0(マイナスワン)」が選出されました。日本のコンテンツ創造能力は健在であることがあらためて示されました。

しかし週明けの株式市場は、ハリウッドからの朗報とは裏腹に日経平均は今年最大の下げ幅を記録しました。終値は▲868円でしたが、ザラ場中の最安値は一時▲1190円に達しました。

ボラティリティの高いマーケットですが、週明けから▲1000円を越える下げには驚かされました。要因は1ドル=146円台まで急激に進んだ円高・ドル安、および東京エレクトロン(8035)やアドバンテスト(6857)に代表される半導体関連株の下落です。

そのような株価の下落に対して、日銀がETFの買い入れを見送ったこともマーケットでは驚きをもって受け止められました。

日銀によるETFの買い入れは、「量的・質的金融緩和」の中の「質的」の部分を担っていました。実体は株価テコ入れ策です。安倍政権下では日常的に行われたテコ入れ策だったとしても、その後の菅政権、岸田政権では望むこともできません。

ETFの買い入れが無かったからと言って特段の驚きもないのですが、やはり市場の一部には「質的緩和」への期待も残っていたようです。翌火曜日も日経平均は続落し、一時▲500円を超える下げにつながりました。

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円高と半導体セクターの下落という、ふたつのネガティブ要因は表裏一体のところがあります。いずれも前の週の米国市場の展開を受けての下落です。加えて円高によって、トヨタ自動車(7203)やマツダ(7261)などの自動車株も下落しており、その後も週を通じて株式市場を圧迫する形となりました。

日経平均はあまりに速いペースで4万円まで駆け上がってきたので、ここからは38,000円台までの調整はやむなしとの見方が市場では一般的になっています。しかし実際に下落が始まってみるととたんに不安材料が噴出します。

日銀が金融政策を変更するのは10年以上も経験したことがありません。あくまでも臨時的なマイナス金利を解除するだけであって、決して引き締めへの転換ではないとわかっていても、広く沁みついている金融緩和効果がわずかに変更されただけでどこまで影響が出るのか、予想がつかないのが実情です。

本来であれば「金融の正常化」はプラス材料となる日本の銀行セクターが、先週はメガバンクから地銀まで週を通して軟調でした。その辺にも現在の株式市場が神経質になっている様子がうかがえます。

銀行株にとって金利上昇は本当に買いなのか、その辺も含めて今週の日銀会合の結果判明が待たれるところです。

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株式市場では調整色が徐々に強まるのに対して、実業界からは想像もつかないほどの巨大な変化が次々と起こっています。

代表的な例をふたつ挙げると、ひとつは日産自動車とホンダがEV分野での協業を正式に発表したこと、もうひとつは春闘における賃上げのレベルです。

報道ベースでは、日産とホンダは中国での生産能力を大幅に削減する一方で、EV開発に関して提携の検討を開始したと発表しました。

両社はすでに提携の覚書を交わしており、具体的には駆動系の基幹部品である「e-Axle(イーアクスル)」の開発と調達を連携してゆくことになります。

「イーアクスル」はモーター、インバーター、ギアを一体化した駆動系の基幹装置で、ガソリン車のエンジンに当たります。

自動車は「エンジン、ブレーキ、ステアリング、ギア、サスペンション」という5つの基幹技術で成り立っているとされ、中でもエンジンは中核の中の中核技術です。他の要素技術は外注でまかなったとしても、エンジンだけは自動車メーカーは自社内で生産してきました。

「秘中の秘」の技術がたくさん詰まっています。そこでライバル社が提携してゆくのは大きな決断です。

日本車が世界でこれまで圧倒的な優位性を保ってこれたのは、中核であるエンジンの技術が優れれていたためでもあります。世界のメーカーがEV化を急ぐのも、エンジンに秀でた日本車の優位性を少しでも低下させるためだとされています。

エンジン技術での優位性が捨てられず、日本メーカーが世界でのEV化の流れに遅れを取ったのは事実です。今回の日産自動車とホンダの提携は、そのエンジン技術をいったん脇に置いて、「イーアクスル」に集中する姿勢を示したと受け止められます。

しかしこの提携が最適解である保証はありません。各社単独ではカネと時間ががかかり過ぎるため、ここで大同団結の方向を示しただけかもしれません。「イーアクスル」では先行するニデック(6594)も中国で苦戦しています。

トヨタはマツダ、スバル、スズキとともにグループの総力を挙げてくるはずです。新しい動きは始まったばかりです。大きな変化はこれからも連発して出てくることでしょう。自動車セクターの動きから目が離せません。

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もうひとつが賃上げのレベルです。先週は3月13日(水)が春闘の集中回答日でしたが、そこで示された大企業・主要企業の会社側の回答は6%から7%に達し、軒並み組合要求への「満額」の回答、あるいは要求以上の回答となりました。

トヨタは4年連続で満額回答、日本製鉄は組合要求をはるかに超える12%、定昇込みで14%と回答し世間を驚かせました。

非製造業ではNTTが7.3%で過去最高の賃上げ。東急電鉄も過去最高の7.3%を示しました。王将フードサービスは11.5%、ゼンショHDは12.2%で妥結しています。現時点における第一次集計は5.28%に達しており、まさに「異次元の賃上げ」です。

賃金が上がると物価も上昇します。「賃金と物価の好循環」が早くも始まっており、賃上げ回答率を見た直後から、スーパーの店先では安い品物がほとんど見当たらなくなりました。小売店側でも強気の値付けをするようになり、ここでも世の中が大きく変わりつつあります。

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OECD統計では、日本は2022年の賃金が20年前とほとんど変わらなかった唯一の国となっています。この間に米国は27%、英国は20%、ドイツは15%も賃金が上昇しました。外国人観光客が喜んで日本を訪れるはずです。日本の賃金の水準は、OECD加盟国の38カ国中で第25位とされています。

企業はこの間に設備投資も控えており、その分を内部留保に積み上げています。2023年3月期の企業の利益剰余金は554兆円に達し、15年間で2倍になりました。

その内部資金を現在は人件費と株主配分に回しています。きっかけのひとつは慢性的な人手不足です。現在の流れがどこまで継続するのか、果たしてここから実質賃金は上昇してゆくのか、経済の好循環に向けて、日本全体にどこまで波及するかが問われます。

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先週の東京株式市場は、TOPIXが7週ぶりに下落しました。下落率は▲2.05%で、前週の+0.64%から久しぶりに反転しました。週間での下落は今年2回目です。

規模別では、大型株(▲2.63%)、中型株(▲0.86%)、小型株(▲1.18%)といずれも軟化しましたが、中でも大型株の下げが目立っています。

スタイル別では、バリュー株(▲1.92%)、グロース株(▲2.20%)とどちらも下落しました。グロース株は下げが続いています。バリュー株に属する配当を重視したTOPIX配当100指数は11週ぶりに下げに転じています。

騰落レシオは、週を通じて最も低いところが3月13日の97.15%で、週末値は103.16%にとどまりました。依然として中立状態の100%近辺に位置しています。日経平均のサイコロジカルラインは「4」が週末の3日間続いています。

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TOPIX-17業種のセクター別騰落は5業種が上昇し、12業種が値下がりしました。

値上がりトップは「電力・ガス」、次いで「不動産」、「エネルギー資源」となっています。いずれも低バリュー株に属するセクターです。

「電力・ガス」は週末に東京電力HD(9501)が急伸し、週を通じて安定した動きとなりました。バリュー株としての色彩の強い電力株は、市場全体が調整局面に向かう中で、かつてのように資金の逃避先となりつつあります。

また、より積極的には再生可能エネルギーの活用、電力設備投資の拡大という大きな背景も見えてきました。

「不動産」も同様の流れで、三井不動産(8801)、三菱地所(8802)、住友不動産(8830)の大手不動産株が堅調です。

「エネルギー資源」では、ENEOS(5020)、出光興産(5019)の石油元売り各社が堅調でした。そろって低PBR、高利回りが持ち味です。

反対に値下がりセクターの上位には「銀行」、「機械」、「電機・精密」となりました。いずれも前の週まで値上がり上位として活躍していた業種です。

「銀行」は週を通じてメガバンクの下げが目立っています。先週まで堅調だった三菱UFJFG(8306)、三井住友FG(8316)、みずほFG(8411)がそろって軟調な動きに終始しました。

地銀株も九州FG(7180)、西日本FH(7189)を中心に調整ムードが強まっています。今週の日銀金融政策決定会合が大きな焦点となりつつあります。

「機械」ではディスコ(6146)、

(後略)

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鈴木一之